東京高等裁判所 平成7年(ラ)524号 決定 1995年10月31日
抗告人 宗廣好江
相手方 新東建設株式会社
右代表者代表取締役 安達良平
主文
原決定を取り消す。
相手方の本件不動産引渡命令申立を却下する。
申立費用及び抗告費用は相手方の負担とする。
理由
一 本件抗告の趣旨は「原決定を取り消す。相手方の引渡命令申立を却下する。」というもので、その理由は別紙抗告理由書記載のとおりであり、これを要するに、抗告人は、原決定添付物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有し、これに譲渡担保権を設定して株式会社マークから一〇〇〇万円を借り受けたところ、同会社が株式会社東京シテイファイナンスのために本件建物に根抵当権を設定し、その実行を受けるに至ったものであるが、本件建物に居住する権原があるので本件引渡命令は違法であるというものである。
二 記録によれば、抗告人は昭和六三年九月一九日に本件建物の贈与を受け、同月二六日その旨の所有権移転登記手続を経由し、夫とともに本件建物に居住していたものであるが、平成元年二月一五日、株式会社マークから金員を借り受け、同会社のために本件建物に譲渡担保権を設定し、同月一六日、譲渡担保を原因とする所有権移転登記手続をし、引続き本件建物を無償で占有していたところ、同会社は同年九月二一日、株式会社東京シティファイナンスのために本件建物に極度額四二〇〇万円の根抵当権を設定したこと、株式会社東京シティファイナンスの申立により、平成五年七月二三日、本件建物につき担保権実行としての競売開始決定がされ、同月二六日差押えの登記がされたこと、右競売による売却により、相手方が代金を納付して本件建物の所有権を取得したこと、抗告人は依然本件建物を占有していることがそれぞれ認められる。
ところで、民事執行法一八八条により担保権実行としての不動産競売事件に準用される同法八三条一項の引渡命令は、不動産の所有者又は事件の記録上差押えの効力発生前から権原により占有している者でないと認められる不動産の占有者に対して発せられるものであるところ、前認定のとおり、本件建物については株式会社マークが譲渡担保権を有しその旨の所有権移転登記手続がされているから、執行手続上の所有者は株式会社マークというべきであり、抗告人は本件建物の占有者でしかなく、その占有権原についてみるに、前認定の事実によれば、抗告人は譲渡担保権者である株式会社マークの承諾を得て本件不動産を占有してきたとみられるから、抗告人は本件建物につき、所有者である株式会社マークに対し譲渡担保契約上の利用権、すなわち使用借権を有してきたものといわざるを得ない。そして、前認定の事実によれば、抗告人の占有権原は本件競売手続による差押え前からのものであることは明らかであるところ、民事執行法八三条一項本文の「権原」は執行手続上の債務者、所有者に対する関係における占有権原であれば足り、買受人に対抗できる権原をいうものではないと解される。してみると、抗告人は同法八三条一項の引渡命令の相手方となるべき要件を欠くことになるから、抗告人に対し引渡命令を発令した原決定は違法であり、取消しを免れない。
三 よって、原決定を取り消し、相手方の本件引渡命令申立を却下することとし、申立費用及び抗告費用を相手方に負担させ、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 渡邊昭 裁判官 河野信夫 山本博)
<以下省略>